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知的財産権の懲罰的賠償の適用要点
Thu Jun 02 15:22:00 CST 2022 発表者:华诚小編 ファイルをダウンロードしてないPDF

規定解読|「北京市高級人民法院による知的財産権侵害民事事件における懲罰的賠償の適用に関する審理指南」から見た知的財産権懲罰的賠償の適用要点

賀暁博

 

2013830日に改正された「中華人民共和国商標法」第63条は、最も早く懲罰的賠償について規定している2019年に改正された「不正競争防止」では懲罰的賠償の条項が追加された。2020年に公布された「民法典」第1185条では、知的財産権の懲罰的賠償の基礎条項が創設された。その後、「特許法」、「著作権法」でも当該条項相応の改正が行われ、懲罰的賠償条項が増設された。知的財産権侵害の懲罰的賠償制度の確立は、知的財産権の深刻な侵害行為を法により処罰し、知的財産権の司法保護を強化し、懲罰的賠償制度の抑止効果を十分に発揮させるのに役立つ。

202132日、最高人民法院は「知的財産権侵害民事事件の審理における懲罰的賠償の適用に関する最高人民法院の解釈」(以下、解釈」という)を公布し、懲罰的賠償制度の適用基準を統一した。2022425日、北京市高級人民法院は「知的財産権侵害民事事件における懲罰的賠償の適用に関する審理指南」(以下、「指南」という)を公布し、知的財産権における懲罰的賠償の有効な執行を更に強化し、知的財産権への深刻な侵害行為を断固として抑制しようとした。「指南」の具体的な規定をふまえ、知的財産権の懲罰的賠償の適用におけるいくつかの要点と変化を以下に簡単に分析する。

 

一、構成要件

知的財産権侵害民事事件に対して懲罰的賠償を適用するには、「故意」「情状が重大である」という2つの法定構成要件を満たす必要がある

「故意」には「悪意」が含まれており、両者は一致すると理解べきである。「解釈」では、知的財産権を侵害する故意の認定は、侵害された知的財産権の客体の類型、権利の状態及び関連製品の知名度、被告と原告又は利害関係者との関係等の要素を総合的に考慮しなければならないとの認識が示されており、「故意」と認定できる次のいくつかの状況が列挙されている。(1)被告が原告又は利害関係者から通知、警告を受けた後も引き続き実施した。(2)被告又はその法定代表者、管理者が原告又は利害関係者の法定代表者、管理者、実質的支配者等である。3)被告が原告又は利害関係者との間に労働、労務、提携、フランチャイズ、取次販売、代理、代表等の関係が存在し、且つ侵害された知的財産権に接触したことがある4)被告が原告若しくは利害関係者との間に業務上の往来があり、又は契約等を成立させるために交渉を行ったことがあり、且つ侵害された知的財産権に接触したことがある。(5)被告が海賊版制作、登録商標冒用の行為を実施した。

知的財産権を侵害する「情状が重大である」との認定については、権利侵害の手段、回数、権利侵害行為の継続期間、地域の範囲、規模、結果、訴訟における権利侵害者の行為等の要素を総合的に考慮する必要がある。「解釈」では同じく次の7つの状況列挙されている。(1)権利侵害により、行政処を受け、又は裁判所の裁判で責任を負ったにもかかわらず、再度同一又は類似の侵害行為を実施した。(2)知的財産権侵害を生業としている。3)権利侵害証拠を偽造、破壊又は隠匿した。(4)保全裁定の履行を拒否した。(5)権利侵害により得た利益又は権利者の被った損害が巨額である。(6)権利侵害行為が国の安全、公共の利益又は人身の健康に危害を及ぼす可能性がある。(7)情状が重大であると認定できるその他の状況。

「指南」は「解釈」に基づ、「故意」として列挙されている状況更に拡張、第2.2条の「故意」認定する状況において、悪意ある登録、他人の著名商標(CN:商標の使用、権利表示の遮蔽除去、取り消された知的財産権の継続使用、及び主管部門から権利侵害の通知を受けたかかわらず、なお引き続き権利侵害行為を実施した場合など、実務において割と代表的な状況追加。第2.4条の「情状が重大である」と認定する状況においては、著名なスポーツ試合展示会の知的財産権への侵害、権利侵害動画の複数のルートでの配信、権利侵害の回数が多い、継続期間が長い、のれんの被害が深刻である、暴力脅迫等の違法手段での国の職員による調査・証拠収集への妨害など一連の代表的な行為が追加されており、「行政摘発の過程における権利侵害者の行為表現」も「情状が重大である」ことへの考慮基準の一つとされている。

また、「指南」が「解釈」と異なる点として、第2.5条において次のような「故意」とも「情状が重大である」とも認定する共通の状況が創設的に規定されており、代表性があるだけでなく、現在の商業行為の新たな発展に適合している。1)主に知的財産権侵害を生業としている。(2)映画、ドラマ、バラエティ番組、スポーツ試合の番組又はオンラインゲームの公開配信前又は公開配信の初期に権利侵害著作物を無断で配信した。(3)合法的な授権を経て権利商品又は役務を提供すると同時に、同一の知的財産権を侵害する商品又は役務を無断で提供した。(4)広告宣伝、提携交渉、契約締結、サンプル展示及び体験サービス等の過程において権利商品若しくは役務を提供したが、実際の取引時に同一の知的財産権を侵害する商品若しくは役務のみを提供し、又は主に提供した。5)行政処罰を受けた後又は行政裁決によって権利侵害認定された後、同一の権利侵害者が再度又は継続して同様の権利侵害行為を実施した6)当事者が自発的に合意した和解協議において権利侵害を確認した後、同一の権利侵害者が再度又は継続して同様の権利侵害行為を実施した。7)発効した判決、調停書、仲裁裁決にて権利侵害認定された後、同一の権利侵害者が再度又は継続して同様の権利侵害行為を実施した。8)企業の増設、企業名称の変更、法定代表者の変更、関連企業の利用等の方式で再度又は継続して同様の権利侵害行為を実施した

以上、実務における主観的客観的要件が緊密に結合している割と代表的な状況を列挙することで、審理の進捗をある程度速め、かつ権利者の立証の負担を著しく軽減することができる。しかし、上記に当てまらない状況は、やはり第2.2条、2.4条に照らして分析、認定を行う必要がある。

 

二、賠償基準額の確定

「解釈」の規定によれば、懲罰的賠償額を確定する際には、原告の実際の損害額、被告の違法所得額又は権利侵害により得た利益を計算の基準額としなければならない。上記金額の計算が困難な場合、人民法院は法により当該権利の使用許諾料の倍数を参照して合理的に確定し、これを懲罰的賠償額の計算の基準額とする。

「指南」第3.2条~3.4条では、確定方法、適用順序、選択使用の3つの面から基準額の確定規則の細分化を行った

まず、基準額の確定方法については、「指南」では「解釈」と一致して、法定賠償額を懲罰的賠償の計算の基準額としてはならないと明確に規定している。また、「指南」では、権利侵害者が権利侵害行為により得た利益とは、権利侵害者が知的財産権侵害により得た財産的収益を指し、通常は権利侵害者が権利侵害により得た営業利益を指しているが、主に権利侵害を生業とする権利侵害者については、その販売利益で計算することができると強調されている。

次に、「指南」では、適用順序について、裁判の実務をふまえて異なる類型の知的財産権事件における懲罰的賠償の適用の一般的な規則がまとめられている。商標法、種子法に基づき懲罰的賠償を適用する場合、適用順序は一般的に1)権利者の実際の損害、(2権利侵害者が権利侵害行為により得た利益、(3)使用許諾料の合理的倍数とする。特許法、著作権法に基づき懲罰的賠償を適用する場合、適用順序は一般的に(1)権利者の実際の損害又は権利侵害者が権利侵害行為により得た利益2)使用許諾料の合理的倍数又は権利使用料とする。不正競争防止法に基づき営業秘密侵害行為に対して懲罰的賠償を適用する場合、適用順序は一般的に、(1)権利者の実際の損害、(2)権利侵害者が権利侵害行為により得た利益とする

更に、「指南」では、適用順序について、一般的には先に記載されている方法を優先的に適用して懲罰的賠償の基準額を確定し、先に記載されている方法で懲罰的賠償の基準額を確定しにくい場合は、権利者が後に記載されている方法で懲罰的賠償の基準額を確定することができるということが明確にされている。これによって、権利者が基準額の確定方法を選択適用する規則を明確にし、従来の知的財産権類事件にて懲罰的賠償を適用する際の慣用的な考え方を補足し、鍵となるコア技術、重点分野、新興産業に対する保護の強化に役立つ。


三、 倍数の確定

「解釈」第6条では、懲罰的賠償の倍数を確定する際に被告の主観的過失の度合い、権利侵害行為の情状の重大さ等の要素を考慮する必要があると簡単にしか規定していない。また、同一の権利侵害行為により既に行政上の過料又は刑事上の罰金を科されており、且つ執行が完了した状況は、倍数を総合的に考慮する要素に入れることができると規定している。

「指南」第3.143.19条では倍数の確定について詳細に規定しており、「指南」における「故意の権利侵害」及び「情状が重大である」という状況のほか、事件の具体的な状況に基づき、以下の要素を総合的に考慮することができる(1)権利侵害の故意の度合い、(2)権利侵害の継続期間、(3)侵害した知的財産権の数、(4)権利侵害行為が業界に及ぼした危害、(5)権利侵害者が知的財産権を複数回侵害したかか、(6)権利侵害者が侵害により得た利益の証拠をありのままに提出したか否か

「指南」はまた、特許権、商標権、著作権、営業秘密及び植物新品種権などを侵害する行為に対する懲罰的賠償の倍数の確定について、それぞれ指針を示した。特許権侵害においては、特許の種類、イノベーションの度合い、価値、残存有効期間、侵害件数などを重点的に考慮する商標権侵害においては、権利者ののれん、商標の知名度、権利侵害商標と登録商標の類似度、同業者間の競争という状況の有無などを重点的に考慮する。著作権侵害においては、権利者の知名度と影響力、権利客体に係るビジネスモデル、侵害された同一の著作権を構成する権利又は著作権に関係する権利の種類の数、権利侵害により得た利益の状況、権利侵害行為の規模、継続期間等を重点的に考慮する。営業秘密の侵害においては、営業秘密の類型と価値、イノベーションの度合い、コストの投入、秘密保持措置、権利侵害の手段、競争優位性の保持などを重点的に考慮する。植物新品種権の侵害においては、権利付与品種の生産、繁殖、市場規模、価格及び数量、輸出入禁止の範囲に入っているか否か、国の食糧の安全に危険を及ぼすか否かなどを重点的に考慮する。

更に、「指南」第3.20条では懲罰的賠償の約定の適用規則が規定されている。当事者は懲罰的賠償の基準額、基準額の確定方法、倍数及び総賠償額を約定でき、且つ約定する倍数は法定の15倍の範囲という制限を受けない。懲罰的賠償の約定には、「明らかに不合理」という除外の原則を適用する必要がある。即ち、権利者が適用するよう主張した懲罰的賠償が約定と異なり、権利侵害者が約定した範囲内での賠償を主張した場合、権利侵害者の主張を支持することができるが、権利者が有効な証拠を提供して当該約定が明らかに不合理であることを証明した場合はこの限りでない。一方、約定した懲罰的賠償の倍数が法定の範囲に入っていない場合に、約定を適用するよう請求したときは、一般的にはこれを支持する。ただし、相手方の当事者が有効な証拠を提供して当該約定が明らかに不合理であることを証明した場合はこの限りでない。

 

四、オンラインサービス提供者への適用

目下割と目立っているインターネットのライブコマース、購入代行行為での知的財産権侵害の現象について、「指南」第4部分では、オンラインサービス提供者に対する懲罰的賠償の適用規則を整備した。「指南」第4.2条では、ネットワークのユーザーがそのオンラインサービスを利用して権利侵害行為を実施したことをオンラインサービス提供者が明らかに知っていると認定できる次の4種類の行為が列挙されている。(1)権利者から権利侵害通知を受けた。(2)知的財産権行政主管部門から権利侵害通知を受けた。(3)ネットワークのユーザーそのオンラインサービス権利侵害行為の実施に利用たことから関連する訴訟、仲裁手続に参加した。(4)ネットワークのユーザーと分担協力する形で権利侵害の客体を提供した。

4.3条では、オンラインサービス提供者実施した幇助又は教唆行為が「情状が重大である」ことに該当すると認定できる6の状況が列挙されている。例えば、ネットワークのユーザーが発効した判決、裁定の履行を拒否したにもかかわらず、当該ユーザー同様の侵害行為を引き続き実施するために、オンラインサービス提供者がオンラインサービスを提供した場合や、ネットワークのユーザーがオンラインサービスを利用して権利侵害行為を実施したために、オンラインサービス提供者が法により権利侵害と認定されたにもかかわらず、当該ユーザー同様の侵害行為再度又は継続して実施するために、オンラインサービス提供者がオンラインサービスを提供した場合などである。「指南」第4.74.8条では、ライブコマース、購入代行行為において懲罰的賠償を適用する可能性のある状況について規定している。

上記の規定は、オンラインプラットフォームのガバナンスを更に規範化、故意の権利侵害の結果オンラインプラットフォームによって更に拡大されるのを回避するために確実な根拠を提供し、目下オンラインプラットフォームに権利侵害事件が多発する中懲罰的賠償の適用のニーズに速やかに応えている。

 

また、「指南」第5部分では懲罰的賠償を適用する際の手続上の事柄について補足している。権利者が懲罰的賠償の計算に関する内容を提示又は変更するタイミングを明確にしており、権利共有者がそれぞれ懲罰的損害賠償請求を提起した場合、及び権利者が共同侵害者に対して異なる懲罰的損害賠償請求を提起した場合について、それぞれ詳細に規定している。一方、「指南」では権利侵害行為の適用段階の件についても明確に分けており、司法実務に明確な指針を示している。

 

全体的に言えば、「解釈」の原則的な規定の下で、「指南」は実務経験に基づき関連する規則細分化し、異なる状況に応じて考慮基準を示しており、より代表性と実行可能性を備えている。


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